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スギ・ヒノキの人工林が引き起す水害・土砂災害・獣害という人災

鍋の平キャンプ場の先の林道復旧工事現場の画像

夏になると大雨や崖崩れなどの災害が全国で多発するようですが、その全てを単なる「天災」で片づけて良いものなのかと毎年のように考えてしまいます。

大雨や洪水のニュースが流れると「大雨だから仕方ない」とか「地球温暖化で気候がおかしくなっているんじゃないの」とか言う話を聞くことが多いのですが、本当にそうなのでしょうか。

テレビやネットのニュースではまず言及されませんが、スギやヒノキの人工林にも、その災害を引き起こした原因があるのではないでしょうか。

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スギやヒノキの人工林には保水力がないこと

私がなぜ、洪水や土砂災害の原因にスギやヒノキの人工林が関係していると考えるかというと、それはカシやナラ、シイやクヌギといった雑木の生えた雑木林では腐葉土が豊富な水を貯えることが出来る一方、スギやヒノキの人工林ではそれが出来ないため、その保水力に大きな違いがあるからです。

カシやナラ、クヌギやシイといった日本の中低山に元々生えているような雑木林では、落葉が堆積することで土壌の上に腐葉土が作られていきますから、その腐葉土が長い年月にわたって山肌に堆積していくことで、雑木の生えた山の斜面はさながら分厚いスポンジに覆われたような状態になります。

そのため、カシやナラ、シイやクヌギといった雑木林の広がる山々では、たとえ大雨が降ったとしても、その山の斜面に堆積した分厚い腐葉土の層がスポンジ状の天然のダムとなって降り注いだ雨を保水することができるのです。

カシやナラなどの雑木の生えた山では、腐葉土の保水力を越えた雨水だけが川に流れていくことになりますから、たとえ大雨が降ったとしても川に流れ出る雨水は最小限に抑えられるので滅多なことで河川が氾濫することはないのです。

一方、スギやヒノキなどの針葉樹は、葉に油分が多く含まれているため、落葉しても腐葉土にはなりません。

スギやヒノキの植えられた人工林の山では腐葉土が雨水を保水することができませんから、降り注いだ雨はそのままダイレクトに川に流れ出ることになるのです。

つまり、スギやヒノキの人工林の面積が大きくなればなるほど、川に流れ込む雨水は多くなり、川が氾濫するリスクは高くなるわけです。

そして、日本全国、市街地から近い里山にはほぼ全てといっていいぐらいスギやヒノキが植えられていますから、昔であれば氾濫しなかった川であっても、周辺の広大なスギやヒノキの人工林に降り注いだ雨水が一気に流れ込むことになり、河川の氾濫や土砂崩れを引き起こしてしまうということになるのです。

スギやヒノキは根が浅いので地盤が弱くなる

また、カシやナラ、クヌギやシイといった広葉樹の雑木は根が地面の「下」に深くに伸びていく性質がありますので、それら雑木が生えている雑木林の山では地盤の奥深くまで木の根が張り巡らされた状態になる結果、少々の大雨や地震が起きても崖崩れや地滑りが発生することはありません。

これに対して、スギやヒノキなどの針葉樹は、根が「横」に広がって行く性質がありますので、スギやヒノキなどの人工林の山は、極端に言うと山の岩盤の上に木を置いているだけのような状態になります。

そのため、スギやヒノキなど針葉樹の人工林では広葉樹の天然林と比較して地盤が極めて脆弱になり、大雨などでがけ崩れや地滑りが発生しやすくなるのです。

テレビで大雨や台風が原因の地滑りやがけ崩れの映像が流されているのを見ることがありますが、崖崩れや地滑りを起こしている現場はほぼ全てと言ってよいほど、スギやヒノキが植えられている人工林です。

私も和歌山の山奥で4年ほど林業に携わっていたことがありますが、カシやナラなど雑木林の斜面が崩れた現場というものは、一度も見たことがありません。

今回の鬼怒川の氾濫のニュースでも、テレビに何か所か崖崩れの現場が映っていましたが、全て人工林の斜面でした(例えば、小学校の裏山が崩れている映像ではヒノキが窓を突き破っていましたね)。

もちろん、雑木林であれば絶対に崖崩れを起こさないとまでは言いませんが、過去に崖崩れや地滑りが発生しているほとんどの現場は、人工林の山だということは間違いないはずです。

ちなみに、下の画像は数年前に和歌山で多発した土砂災害の現場(復旧工事後)の一つです。こんな感じで人工林の山肌は地盤が弱いので、いったん大雨が降るとゴッソリと崩れ落ちてしまいます。

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スギやヒノキを植えすぎると川が氾濫しやすくなる

以上のように、スギやヒノキの山は保水力が無く、地盤も弱くなりますから、大雨に対する抵抗力はほぼゼロです。

そのため、スギやヒノキを植えた山の面積が広くなればなるほど、その山を源流とする川は氾濫のリスクが高くなると言えます。

もちろん、今回の鬼怒川の氾濫原因の全てがスギやヒノキの人工林にあるとまでは言えないでしょう。

現在植えているスギやヒノキを全て雑木に植え替えたとしても、今回の氾濫は防ぐことができなかったかもしれません。

しかし、もしもスギやヒノキの人工林が雑木林であったとしたら、これほどまでに川の水位が上昇することはなかったでしょうし、崩れた斜面も崩れなかったかもしれません。

スギやヒノキは”自然”ではない

ところで、勘違いしている人は多いですが、スギやヒノキが植えられている山は、”自然”の山ではありません。

スギやヒノキの植えられている山には、戦前にはカシやナラ、クヌギやシイといった様々な雑木が混在した多様な植物の広がる豊かな”自然”が広がっていた事実があるからです。

しかし、太平洋戦争中、戦況が悪化するにつれ燃料不足が深刻化した日本では薪を燃料にしたり、木炭を燃料にした木炭車が使われたりということが全国で行われるようになりました。

その結果、日本中の山々で薪炭材確保のために広大な雑木林が伐採され、終戦後の日本の多くの里山は木々がほとんど無いような丸坊主の状態になったのです。

そして、戦後復興の一環として「植えよ増やせよ」のスローガンのもと、日本中の丸坊主となった山という山にスギやヒノキの苗木が植えられていくようになります。

資源の無かった日本が、スギやヒノキを大量に植林し、木材として海外に輸出することで外貨を獲得するのが目的でした。もちろん、戦後復興に必要な建材確保の狙いもあったでしょう。

私が和歌山の山奥に住んでいたときに聞いた話では、当時は苗木1本植えたら数十円だったか数百円だったか忘れましたがお金をもらえたらしく、国の政策のため苗木は農協に行くとタダ同然で仕入れることができましたから、村の人が競争でもするように苗木を担いであっちこっちに植えまくったそうです。

地元の年配の人が「〇万本植えたで」「ワイは〇万本や」などと自慢げに話をしていたのをよく覚えています。

山登りに行くと、全国の山で「何でこんなところにスギやヒノキが植えられているの?」と疑問に思うことがありますが、いたるところにスギやヒノキが植えられているのは、そういうことが理由です。

なので、スギやヒノキの山というものは、断じて”自然”なものではありません。

あれは、戦後に国の政策で苗木を植えまくった結果です。人口造営物なのです。

シカ・イノシシ・サル・クマの問題

スギやヒノキの人工林は、災害の原因となるだけの話ではありません。

シカ・イノシシ・サル・クマなど、いわゆる「害獣」とよばれる動物の問題もスギやヒノキの人工林が原因の一つとして存在します。

シカやイノシシ、サルなどが畑を荒らすのは、山に食べ物がないからです。

スギやヒノキの人工林では、当然ながら”クリ”や”イモ”や”柿”や”どんぐり”といった食べ物になるような植物は存在しません。

人工林に足を踏み入れてみると分かりますが、スギやヒノキの林の中は「シーン」としています。

雑木林のように鳥や虫の鳴き声はほとんどしません。食べ物がないからです。

シカやイノシシ、サルやクマなどの野生生物は、雑木林でしか生きられないのに、人間がスギやヒノキを植えまくったから、食べる物がなくなって、仕方なく里に下りてきているのです。

クマだって、好き好んで里に下りてきて人間のゴミをあさったりしているのではありません。

クマが生きられないほどにまでスギやヒノキを植えまくったから飢えて人里にまで降りてきて、人に出くわして、びっくりして自分の身を守るために爪でひっかいて、ハンターに撃ち殺されているだけなのです。

電気柵や罠で対抗するのもいいですが、そんなことより、植えすぎたスギやヒノキの人工林を本来の雑木林(自然林)に戻してやればいいのにといつも思います。

自然林に戻してあげれば、野生動物もわざわざ殺されるリスクを冒してまで人里に下りてこないはずです。

数日前に、サルが雷鳥のヒナを食べていたというニュースが流れていましたが、あれも山に食べ物がないからなんじゃないでしょうかね。

花粉症の問題

花粉症の問題もスギやヒノキの人工林が関係しています。

戦後にスギやヒノキを大量に植林し、50~60年近くが経ったここ十数年の間に急激に花粉の量も増え、花粉症を発症する人が多くなったのではないでしょうか。

日本の山はどこに行ってもスギやヒノキが植えられていますが、前述したように、これらの人工林は戦後に植えたものであって、元から自然に生えていたものではありません。

花粉症と聞くと、「自然ものだから仕方ない」と思っている人がほとんどだと思いますが、花粉症は自然災害ではありません。

人間がスギやヒノキをあまりにも多く植えすぎてしまったから、大量の花粉が飛散しているだけなのです。

つまるところ、花粉症は”人災”です。

でも、スギやヒノキの人工林も必要

いろいろとスギやヒノキの悪口を書いてきましたが、別にスギやヒノキの人工林の全てが不要だと言っているわけではありません。

国内で使う木材は、国内で生産するべきでしょうから、人工林も必要だとは思います。

安易に外国から輸入すれば国内の利益のために海外の自然破壊を誘発することになりますから、木材の輸入は最小限に抑えるべきでしょう。

しかし、現在の日本の山は、あまりにもスギやヒノキの人工林が多すぎます。

山登りに行くと分かりますが「こんなところにスギ・ヒノキを植えて、いったい誰が切るんだよ」というところにまで植林しているところが目立ちます。

酷いところでは森林限界ぎりぎりまで植林している場所もあります。もちろん、そういうところでは木が育ちきれず売り物にならない状態にしか生育していません。

こんなにスギやヒノキを植えまくったって、今の円相場では日本産の材木を海外に輸出しても採算が合わないでしょう。

ましてや、日本はこれから少子化に向かい人口は減ることが予想されるのですから、建材としてこんなにたくさんのスギやヒノキが必要になるとは思えません。

これからの日本に必要な分の人工林だけを残して、他の人工林は段階的にもとの雑木林(自然林)に戻していくべきなのではないでしょうか。

山に入るといつも思うのですが、日本の山はあまりにもスギやヒノキの人工林が多すぎます。

これを少しでも自然林(天然林)に戻していけば、災害で亡くなる人も少しは少なくなると思いますし、サルやクマなどの野生動物もむやみやたらに殺されなくて済むのではないかと思うのです。

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