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無花粉スギ・ヒノキの苗木への植え替えに反対する理由

登山道に植林されているスギやヒノキの画像

花粉症被害軽減のため、スギの人工林で花粉量の少ない苗木(いわゆる無花粉スギ)への植え替えが進んでいるとの報道が一部のメディアでなされています。

「花粉量がゼロか微量の「花粉症対策杉(対策杉)」の苗木の生産量が近年、急増していることが12日までに分かった。林野庁によると、2016年度の生産量は、前年度比25%増の533万本に達し、同年度の杉苗木に占める割合は25%に上った。苗木の元になる、枝先や種子を供給する成木が増えたことで、苗木の増産ペースが加速している。一方、植林面積に換算すると、国内の杉の人工林面積の0・1%に満たず、取り組みの一層の推進が求められる。」
(※日本農業新聞2018年3月13日付け(https://www.agrinews.co.jp/p43521.html)より引用)

しかし、このような政策には反対です。これは明らかに間違った政策であり、花粉の少ないスギ・ヒノキ(いわゆる無花粉スギ等)の苗木への植え替えは直ちに中止すべきといえます。

なぜなら、スギやヒノキなどの人工林の問題は、何も「花粉症」だけに限った問題ではなく、「山崩れや土砂災害」「河川の氾濫・増水」「サル・シカ・イノシシ・クマ等のいわゆる獣害」「漁獲高の減少」など、他の様々な災害等に関係する複合的な問題であり、花粉の少ない苗木への植え替えを促進することによって、かえってそれら他の問題の解決を不能にし、次の世代の国民に多大な負の遺産を押し付ける結果となることが容易に予測できるからです。

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スギ・ヒノキの人工林に内在する問題

(1)山崩れや土砂災害の原因としてのスギ・ヒノキの問題

勘違いしている人はいまだに多いようですが、国内の山に生えているスギやヒノキのほとんどは、戦後に「植えよ増やせよ」のスローガンの下で国策として植えられたものであって、決して昔からそこに生えていたのではありません。

日本における標高1000m以下の地域には従来、カシやシイ、ナラ、クヌギなどの「広葉樹」が生い茂る広大な自然林(天然林)が広がっていたのですが、戦時中に薪炭材確保のため伐採され荒廃した山々に、戦後になって大量にスギやヒノキが植えられていったのが実情です。

スギやヒノキを植えたのは、戦後復興に必要な建材確保と資源のなかった日本が木材を輸出することで外貨を獲得する狙いがあったからですが、木造家屋の減少による建材需要の縮小や人件費増による建材価格の高騰、高度経済成長による円相場上昇で国産材輸出の採算が取れなくなったこと等様々な要因が重なり、スギやヒノキの人工林は現在のように放置され荒れ放題になっているわけです。

ところで、今述べたように、カシやシイ、ナラやクヌギといった雑木は「広葉樹」ですが、スギやヒノキは「針葉樹」です。つまり、日本は戦後、国策として日本中の山という山を「広葉樹」の山から「針葉樹」の山に変えてしまったことになります。

しかし、これは明らかに失策でした。

なぜなら、「広葉樹」の山を「針葉樹」の山に変えてしまったことを原因として、各地の山林で山崩れや地滑りなどの土砂災害が頻発するようになったからです。

日本の低層地域の山にもともと植わっていたカシやシイ、ナラやクヌギなどの「広葉樹」は「根」が「下」に深く伸びていく性質がありますので、山の斜面に「広葉樹」が自生している天然林の地盤はより強固になり、相当程度の大雨が降ったり多少の地震が発生したとしても滅多に山崩れや地滑りを起こしません。

しかし、これが「針葉樹」の山に変えられると地盤は一変します。「針葉樹」は「広葉樹」と異なり「根」が「横」に広がる性質がありますから、「針葉樹」の山に変えられてしまった山の斜面は「広葉樹」の山であれば影響しない雨量や小規模の地震でも容易に地滑りや山崩れを引き起こしてしまうからです。

例えが適当かわかりませんが、「広葉樹」の山は「薄毛」の人の頭に一本一本「植毛」するようなもの、「針葉樹」の山は頭の上に安物の「ヅラ」を被せたようなものです。「植毛」の方は強風が吹こうがバケツの水をぶっかけようが暴れまわろうがビクともしませんが、「(安物の)ヅラ」は少しの風雨や運動(地震)でもすぐにずり落ちてしまいます。

これが毎年夏に全国で起きている土砂災害の実態であり、小規模の地震でも容易に地滑りを起こす各地の土砂災害の実態です。

昨年(2017年)大分や熊本を中心に被害を出した「九州北部豪雨」もそうでしたし、2014年の広島や2011年の和歌山で発生した土砂災害などもみな原因は同じ。

これらはメディアや政府の位置づけでは「天災」ですが、その実態はスギやヒノキの人工林が引き起こした「人災」なのです。

(※この点についてはこちらのページでも詳しく論じています→「九州北部豪雨」と名付けることに絶対に賛同できない理由

(2)河川の増水、氾濫の原因としてのスギ・ヒノキの問題

夏場に全国で頻発する河川の増水や水害などもスギやヒノキの人工林が関係しています。

スギやヒノキの「針葉樹」の植えられた山は、カシやシイ、ナラやクヌギといった「広葉樹」の自生する山と異なり保水力がほとんどないからです。

日本の低層地帯にもともと自生していたカシやシイ、ナラやクヌギといった「広葉樹」の山では、地面に落ちた落ち葉が長い年月に渡って堆積して腐葉土を作り、その腐葉土がスポンジ状の天然のダムとなって大量の雨水を保水することができます。

「広葉樹」の広がる山域では、たとえ大雨が降ったとしてもその多くは山の地表に留まることで河川への流入量を最小限に抑えることができますので、河川の氾濫は滅多に起こらないわけです。

一方、スギやヒノキの植えられた人工林の山ではそうはいきません。「針葉樹」の葉は脂分を多く含んでいますから、スギやヒノキの山では腐葉土を作ることができず、降り注いだ雨を山の斜面に蓄えておくことができないからです。

スギやヒノキなどの「針葉樹」の山では、山の斜面に降り注いだ雨はそのままダイレクトに河川に流れ込むことになりますから、当然そこを流れる河川には周辺の広大な人工林に降り注いだ大量の雨水が一機に流れ込み、河川の氾濫や土砂災害を引き起こします。

つまり、日本は戦後、国策として日本中の山という山を「広葉樹」の山から「針葉樹」の山に変えてしまうことによって、「河川の氾濫が起きにくい山」から「河川の氾濫を招きやすい山」に山の性質を作り変えてしまったわけです。

これが毎年のように全国で繰り返されている水害の実態で、昨年(2017年)の九州北部豪雨もそうでしたし、2015年に起きた鬼怒川の氾濫だってそうだったでしょう。

これらもメディアや政府の位置づけでは「天災」ですが、その実態はスギやヒノキの人工林が引き起こした「人災」にすぎません。

(3)いわゆる獣害の原因としてのスギ・ヒノキの問題

サルやシカ、イノシシなどによる農作物被害や、クマによる人的被害もスギやヒノキが関係しています。

これらの大型哺乳動物が人里まで下りてくる原因は、山に食べ物がないからです。

「山に食べ物がない」というとマスコミはこぞって「今年はドングリが不作で…」などとトンチンカンな報道を繰り返しますが、「山に食べ物がない」のは人間がスギやヒノキを大量に植えまくった結果です。

日本の山はもともとカシやシイ、ナラやクヌギといった「広葉樹」を中心とする雑木が混在する雑木林がほとんどだったことは先ほども述べましたが、そのような天然林(雑木林)が広がる山がある限り、たとえ「ドングリが不作」になるような悪天候が続いたとしても、山で暮らすサルやシカ、イノシシやクマなどの野生動物が飢えることはありません。

サルやシカ、イノシシやクマなどの野生動物は、何千年、何万年もの間、そのような天候不順を乗り越えて日本の天然林(雑木林)の中で生き抜いてきたのですから、天候不順が続いたとしても雑木林の収穫で十分に生態系を維持できるのは当たり前でしょう。

サルやシカ、イノシシやクマが食べるのは、雑木林で採れるドングリやクリ、カキ、アケビ、木イチゴ、イモ、草、新芽、等々であって、畑のニンジンやジャガイモなどは本来、山の野生動物が好んで食べる食料とはなりません。ましてやスギやヒノキの皮でもないのは当然です。

サルやシカ、イノシシやクマが命の危険を冒してまで凶暴な人間の住む里まで下りてくるのは、あたり一面スギやヒノキの人工林と化してしまった山に食べ物がないからであって、その原因は山という山にスギやヒノキを植えまくったバカな人間に由来します。

山に住む野生動物にとってスギやヒノキの人工林は不毛な砂漠と同じなのです。

にもかかわらず、畑を荒らしたり人を襲った野生生物を「けしからん!」と撃ち殺し、「今年はドングリが不作で…」などと意味不明なアナウンスしているのが、いわゆる「害獣」の問題の本質であって、今のスギやヒノキの人工林の問題の実情ともいえるのです。

(4)漁業不信の原因としてのスギ・ヒノキの人工林問題

スギやヒノキの人工林は海における漁獲高にも影響します。

先ほども述べたように、カシやシイ、ナラやクヌギといった「広葉樹」の雑木林では豊富な腐葉土を作ることができますが、雨が降ればその腐葉土に含まれる養分が河川に流れ込み、その腐葉土の養分が川や海のプランクトンのエサとなって豊かな漁場を育みます。

しかし、スギやヒノキの人工林では葉が脂分を多く含む結果として腐葉土を作ることができませんから、スギやヒノキの人工林が広がるにつれ、川や海の漁場は痩せていき漁獲高の減少を招きます。

無花粉スギ・ヒノキの苗木に植え替えてしまうとどうなるか?

以上のように、スギやヒノキの人工林は、花粉症の原因となる「花粉の飛散」という問題の他にも様々な問題を抱えているのが実情です。

にもかかわらず、「花粉症に悩む人のため」という大義名分を振りかざし、「花粉の少ない苗木(無花粉スギ・ヒノキ)」を現時点で存在するスギやヒノキの人工林すべてで植え替え作業を進めていくとどうなるでしょうか?

(1)人工林における花粉以外の問題解決が先送りされてしまう

スギやヒノキの人工林で「花粉の少ない苗木」に植え替え作業を促進させてしまった場合、おそらく全国の人工林で植え替え作業が行われることになるでしょう。

もちろん、その費用は国の税金を投入することになりますから、予算をとれる自治体も力を入れるでしょうし、仕事の増える森林組合や林業関係者、製材所関連会社等もこぞって賛成するのは間違いありません。当然、そこを票田とする政治家も積極的に関与していくことになるでしょう。

しかし、「花粉の少ない苗木」であってもスギやヒノキであることに違いないわけですから、「根」は「横」に張るので山の地盤は弱いまま改善されませんし、腐葉土も作れません。

そうなると当然、先ほど説明した「山崩れや土砂災害」「河川の氾濫・増水」「サル・シカ・イノシシ・クマ等のいわゆる獣害」「漁獲高の減少」といった問題は何も解決されないことになります。

「花粉の少ない苗木」であってもスギはスギ、ヒノキはヒノキなわけですから、「根」が「横」に広がる限りにおいて山崩れや地滑りは今後も頻発するでしょうし、腐葉土を作れない結果として河川の増水や氾濫も例年どおりの被害を生じさせるでしょう。いわゆる害獣被害も漁獲量の減少も歯止めがかからないまま留め置かれることになります。

問題はそれだけにとどまりません。

スギやヒノキの苗木は売り物になるまで生育するのに40~50年は必要ですから、「花粉の少ない苗木」に植え替えてしまう限り、今後40~50年間は「山崩れや土砂災害」「河川の氾濫・増水」「サル・シカ・イノシシ・クマ等のいわゆる獣害」「漁獲高の減少」といった問題によって生じる犠牲はそのまま放置するしかなくなるからです。

いったん予算をつけて税金を投入し「花粉の少ない苗木」に植え替えてしまえば、たとえその後にその間違えに気づいても、それが生育する40~50年後までは再び予算を付けて伐採することは(政治的に)事実上困難となります。投入した税金が無駄になり、それを主導した政府(政治家)が頭を下げなければならなくなってしまうからです。

つまり、「花粉の少ない苗木」に植え替えることで「花粉症」に悩む人の被害を減少させることはできますが、その代わりに今後40~50年間は土砂崩れや川の氾濫で死んでしまう人や家を失う人、クマやイノシシに襲われて命を落とす人、サルやシカに農作物を荒らされる人のことは見てみぬふりをするしかないことになります。

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